
水晶というミステリアスな存在。最近では、パワーストーンとしても人気を博している鉱物です。山梨県甲府市は、水晶の産地として知られる土地。今回、PingMagRISA(ピンマグリサ)では、ここに江戸時代から水晶で商売を営む土屋華章製作所を訪れました。「水晶」というキーワードだけを追求し繁栄してきた一家には、一筋縄ではいかない物語が隠されています。昔から、不思議なものの代表として扱われてきた水晶。今回は、山梨甲府を代表する水晶店である同店を通じて、そのミステリーに迫ってみたいと思います。

水晶って、何?
水晶は、石英と呼ばれる鉱物が結晶したものです。石英というのは、地球という惑星では、一番多いと言われる鉱物なのですが、それが結晶化されると、さまざまな美しい宝石に様変わりするという具合です。まだ科学が発達する前の日本では、水晶は氷の化石だと信じられていたそう。ちなみに、水晶には、いろいろな種類のものがあります。紫水晶(アメジスト)、紅水晶(ローズクォーツ)、針入り水晶、日本式双晶などです。世界的な産地として名を馳せるのは、ブラジル、アメリカ、中国、アフリカ、スイスなどで、国内の産地としては、山梨県甲府市、岐阜県中津川市、愛知県春日井市、長崎県五島市などが挙げられます。ちなみに、水晶を名に冠した、水晶岳(富山県富山市、飛騨山脈)や水晶峠(山梨県甲府市、金峰山周辺)という場所も日本には存在していて、水晶の存在はなかなか密接に日本の土地に根付いているようです。
ミステリアスな匂い
では、水晶がどうして不思議な石として扱われるかについてを少しだけ探ってみたいと思います。基本的な考えの土台には、この石が持つ特殊な波長があります。後で、詳述しますが、水晶は一定の周波数で振動する特性を備えていて、その超超超微細な周波数の振動が、人に何らかの影響を及ぼすかもしれない。つまり、そんな事実が不思議な力を持っているのではないか、という事実に結びつけられたわけですね。ただし、それも全く信憑性のない話かというと、そうとばかりは言えないようです。ジャーナリストの立花隆氏は、自著でジプシーの占い師が用いる水晶にまつわる事例を集めたところ、一般的にはいかがわしいもののシンボルでもある水晶の玉を眺めることでさまざまなイメージが浮かびやすくなるという実験結果もあったと報告しています。さらに立花氏自身や身内の人間で試してみても、確かに奇妙なイメージが浮かんだと、客観的にその力をほのめかしています。こうなると、水晶が何らかの情報を伝達する力があるという可能性も大きくなってきますね。


江戸時代に創業した水晶店
さて、そうした不思議な力があるかないかはさて置いても、少なくとも多くの人が感じることは、「水晶は美しい」ということです。そして、水晶を眺めていると、心が休まると感じる人も、多いのではないでしょうか。だからこそ、水晶というものは、長きにわたって人々に求められてきたわけです。そんな水晶と江戸時代から向き合い続けてきた店が、土屋華章製作所。はっきりした創業年は不明ですが、嘉永5年(1852年)には創業していた水晶屋さんです。150年以上もの長きにわたりひとつの道、水晶の道を追求し続けるのは、並大抵のことではありません。その道を歩み続けた土屋家の人物らは、よほどの堅い信念や水晶への愛を持っていたに違いありません。同店の現店主土屋氏は先人を振り返り、こう語ります。「私の先代は、商売人として優れた人でしたが、同店の店名にもなっている先々代の土屋華章はものづくりの天才でしたね」。
土屋華章という人物
孫が彼は天才だというのだから、その才能とやらがどんなものであるのは気になるところです。まず、彼の天才性というものは、一体、どんな点を指して言われていることなのでしょう。「何しろ、彼は、自分がつくりたいと思ったものを形にするためには、その機械からつくってしまう」(土屋社長)。その代表的な機械というものが、モーターで水晶を加工する機械です。それまでは、すべて人間の手の力で彫られていたそう。だから、クオリティの高い精密で均一な加工のされた水晶の生産体制が確立されたのは、水晶彫刻の世界では画期的な発明だったわけですね。このことに関しては、かの有名な作家・井伏鱒二氏も、随筆の中で触れているくらいなので、よほどこの甲府の土地では名の知れた人物だったのでしょう。


エリート学者と職人
「今、この甲府の地で、水晶彫刻をしている職人は、みんな祖父の弟子か孫弟子のどちらかです」(土屋社長)
土屋華章氏が育てた弟子は、、有に100人を超えるといいますから、甲府の水晶彫刻の歴史は、彼なくしてはなかったと言っても間違っていないわけですね。そして、その弟子職人に混じって、水晶研磨の技術を学んだ者の中にはユニークな人物もいたようです。彼の名は、古賀逸策、当時は東京工業大学の助教授だった人物です。でも、一体、どうして、そんなアカデミックな世界のエリートが、山梨県の甲府にある水晶屋さんに通っていたのでしょう?「実は、古賀逸策という人物は、研磨カットの技法や技術を学ぼうとしていたんですね」(土屋社長)。なるほど、勘のいい読者なら、何となく、彼が目指していたものがわかるかもしれません。そうです、彼は水晶振動子を研究していたのです。
伝統工芸から生まれた水晶振動子
水晶振動子とは、正確な振動数を得たいときに使われる部品です。簡単にわかりやすいイメージで言えば、それは小さな小さな振り子時計の振り子です。水晶には、不思議な特徴があります。それは、水晶を電池につないで電圧をかけると水晶がバネのようにビヨヨンと振動するというものです。この特徴を活かした部品が、水晶振動子というものになります。つまり、古賀氏は、この水晶振動子の研究をしていたことになるわけですね。「ある角度で加工すると温度の変化を受けずに、波動の変化が少なくなるから、その”ある角度”をつきつめたい」、それが古賀氏が土屋華章氏の門を叩いたときの想いであったようです。そして、ここで生みだされたカットが、古賀カットと呼ばれる、安定して正確な振動の波をつくる水晶振動子「零温度水晶振動子」として昇華するわけです。


世界初のクォーツ時計
読者の中には、「クォーツ時計」という言葉を聞いたことがないという人は、めったにいないでしょう。何を隠そう、そのクォーツ時計=水晶時計の発案をして、第1号機を完成させたのは、この古賀氏なのです(ちなみに、製作した場所は、1933年の東京天文台です)。そして、その土台にあったのが、同店の土屋華章氏との恊働研究の成果、古賀カットだったわけです。現在、水晶振動子の存在は、時計に留まらず、携帯電話やパソコンなど、幅広い製品の中に入れられています。「伝統工芸というと、古くさいものだと考える人もいるかもしれませんが、実は、そうとばかりも言えないのです。どうしてかと言えば、そこで生み出された匠の技が思いもよらない場所で先端技術として活用されるケースは少なくないからです。それは、セラミックが焼き物の技術から、クーラーのフィルターが和紙の技術から生まれているのを見ればわかることです」(土屋社長)。なるほど、水晶彫刻の世界で、超一流の技術が、当時の最先端の技術につながっていったというのは、何とも面白い事実ではありませんか。
才人多い家柄
エリートエンジニアであり、文明の進化に貢献した人物が頼ってやってきた職人が、いかに高い技術を持っていたのか。それは、容易に想像のつくことでしょう。でも、この土屋華章製作所、ユニークな人物、才能のある人物は、彼だけではなかったようです。「私の家系は、代々、それぞれ違ったことを成し遂げる血筋のようです。初代が水晶細工製品を売り出す事業を起し、2代目は眼鏡の研磨をはじめ、3代目は水晶や石の印鑑をつくり、4代目がモーターで水晶彫刻をはじめる、といった具合です。実は私も、いろいろな機械を発明したことがあるんですよ。そのうちのひとつの機械を使って、アメリカに月に100万個の製品を送っていたこともあるんです」(土屋社長)。月100万個!というのは驚きです。一体、どんな機械なのかは、ヒミツのようですが、想像を絶するものであることだけは間違いありません。


芸術としての水晶彫刻
ちなみに、この土屋社長、実は、「芸術家」という肩書きを追い求めて生きていた人物でもあるのです。「私は、アリスティド・マイヨールの弟子、山本豊市という彫刻家に7年ほど弟子としてついていたことがあるんです。だから、言うなれば、私は、マイヨールの孫弟子ということになりますね(笑)。でも、当時は、本気で彫刻の道を極めて、彫刻家になるつもりでいたんです。イタリアにも留学して、より深く彫刻を勉強する気でいましたからね」(土屋社長)。しかし、その夢叶わず、父親に呼び戻されて、家業を継ぐことになったわけです。「葛藤はありましたし、今だに、”彫刻家になってたらなぁ”という気持もあるんですよ」(土屋社長)。しかし、そんなことを言いながらも、水晶彫刻の道には、類似性も見いだしているようです。「芸術というものは、偶発性の中から生み出されるもの。しかし、民芸品は、100個あったら100個同じクオリティの同じものがつくれなければいけないんです。ウチのお店では、そのクオリティのものはつくれる。では、これから、私が何をしたいか?と問われたら、私は、芸術作品としての水晶彫刻をつくりたい。芸術の分野で評価を得られる、表面だけ美しいというのではないものをつくりたい、そう思っているんですよ」(土屋社長)。三つ子の魂百まで、どうでしょう、このアーティストマインド。やはり、芸術を愛する心は、簡単には変らないようです。今も、日に2、3時間は、机に座り、水晶彫りに精魂を込める土屋社長の、次なる飛躍は水晶職人でも、水晶商人でもなく、水晶彫刻家といったところなのでしょうか。今後、彼がどんな作品を生み出すのか、是非、見守っていきたいものです。

水晶店を訪ねる旅
さて、この土屋華章製作所は、山梨県の甲府駅からバスで10分ほどいったところにあります。店内には、ずらりと水晶の商品が並びます。工房も併設されており、事前に予約をすれば、工房見学も可能です。甲府までのアクセスは、東京からであれば、中央自動車道やJR中央本線を利用できるので、想像よりもずっと楽チン。ついでに、もっとゆっくり山梨県近郊を楽しみたい方は、近くにある、手頃な料金で知られるファミリーロッジ旅籠屋の韮崎店、小淵沢店、山中湖店などに1泊するのも、手かもしれないですね。暇な休日、是非一度、訪ねてみることをお薦めします。豊かな緑と美味しいホウトウをすすりつつ、美しい水晶彫刻を眺める旅というのも、なかなか趣き深いはず。水晶土産を買うにしても、直接訪ねれば、そこに自分だけの物語が付け加えられるわけですから、水晶が一層大切な宝物になるのは請け合いです。おまけに水晶が引寄せるマジックで、人生に幸溢れる運気がもたらされるかもしれないですよ。

土屋華章製作所
山梨県甲府市湯村1-13-11
055-252-3485
取材/鈴木隆文
協力/平本哲也
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