
山形県は漬物王国と言われています。漬物の産地と言えば、「西の京都、東の山形」と言われるほど、山形県は漬物のメッカです。さまざまな農作物が穫れる田畑が広がる、この雄大な大地を眺めてみれば、それは非常に合点がいくことです。この地で、とびきり美味しい漬物をつけるのは、漬物ビジネスで第6回女性起業家大賞特別賞も受賞し、「さとみの漬物講座」を運営する、新関さとみさんです。元々、彼女が生まれたのは横浜、そして昔は商社に勤めていた、いわば元都会派の人物。にもかかわらず、彼女が華麗なる転身を遂げたのは、一体、どうしてなのでしょう? PingMagRISAでは、今や「漬物一筋」の人生を歩まれている彼女の元気でユニークな生き様を、インタビュー形式でお届けします。

はじめまして。美味しい漬物を漬ける人がいるというお噂を聞いて、お邪魔させていただいております。
ありがとうございます。こちらは、菊の花を漬けたものです。一番美味しいと言われる品種「もってのほか」を漬けているんです。食べてみてください。美味しいでしょっ。
はい。本当に美味しいですね。それで、どうして、こんなに美味しい漬物が漬けられるようになったのでしょう? さとみさんが漬物の世界に入ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
すべては、この土地に31歳で造り醤油屋(山二醤油醸造)に嫁いできたことがはじまりなんです。はじめて、義理の母の漬物を食べたとき、「何て幸せな場所に嫁いできたんだろう!」って、そう思うくらい、美味しい漬物だと感じたんです。その味のセンスの良さに、「同じ漬物でもこんなに違うものか」ってビックリしたんですね。


その味の感動がとても大きかったわけですね。
はい。でも、自分で漬物をつけるなんていうつもりは、全然なかったんです。「自分なんかに、漬物がつけられるわけはない」、そう思っていました。漬物って、ちょっと敷居が高い感じがするんですよ。
では、どうやって、漬物の世界に足を踏み入れたのでしょうか?
実は、それがひょんなことなんです。山形には青菜を漬ける風習があります。その漬ける量は、翌年の4月まで食べる分なので、量が多いんですね。それで、ある年に漬けていた青菜が、凄く綺麗に漬け上がった。普通は、外の葉2、3枚は捨てなければならない。その後の残りの分しか商品にならないのに、この年は、捨てる分がほとんどなくて、全部が商品となってしまった。それで、大量の青菜の漬物ができあがってしまったのです。本当は、捨ててしまおうと思っていたんです。


近所の知人に配るなどは、駄目なのでしょうか?
それが、まわりの人たちも、みんな、自分たちで漬けているんですよ。その量を腐らせてしまったら、大変なことになりますからね。でも、「母の美味しい漬物を捨ててしまうなんて、もったいない!」、そんな想いが私にはありました。そんなときに、割と近くに、農産物直売所ができたというニュースが飛び込んできたんですね。で、私、言ったんです。「あそこに頼んで置いてもらったらいいんじゃない?」って。
そうしたら、どうなりましたか?
それが、母と主人は「絶対、売れるわけがないっ」って言い張って、「頼みには行きたくない」って言うわけです。母によれば、山形の人間であれば、漬物は誰でも漬けられるものだから、そんなもんを買わないということなんです。それでも、「もったいないなぁ」って言うと、「じゃあ、お前が頼みに行ってこい」ということになったわけです。


なるほど。
それで、雪降る中、赤ちゃんをおんぶして出かけていった。最初は、味見を持っていかなかったので、怒られもしました(笑)。でも、出直して味見を持っていったら、「これくらいだったら、出してやってもいい」って、産直所の人に言われたんです。
何だか、昭和の光景ですね。それで、実際、売れたのでしょうか?
それが、もう大変だったんです。山のようにあった青菜の漬物が売れて売れて、アッと言う間になくなっちゃったんです。売り上げた小銭が入ってくる感覚って、主婦には楽しいんです。「ヤッター!!」って。それで青菜がなくなってしまったとき、「これは素晴らしい山形の文化だな」と思って、はじめてお母さんに、「お母さんの美味しい漬物の仕方、私にも教えて」って頼んだんですよ。私も自分の子供に「ママの漬物美味しい!」って言ってもらいたかったということもあって(笑)。


嫁と姑だと、なかなかそういう関係は難しいと思うのに、素敵ですね。
でも、実際には、実の母にの言うことよりも義理の母の言うことの方が、遠慮ということもあって、素直に耳を傾けられるんです。私が、「この間、漬けた白菜漬けは、上手く漬けられたのに、同じように漬けた今回のはどうしてうまくいかないのかなぁ?」って聞くと、「お前が漬けた後、私が、通りかかったら、重しが傾いていたっけ。漬物は漬けた後にも、安心してちゃ駄目なんだ」って言ってくれるんですね。「なるほどな」っていうことを言ってくれるんです。
打てば響く知恵を持っているということでしょうか?
そうなんです。不思議に思ったことを口にすると、答えがすぐに返ってくる。一緒に生活している嫁と姑だから、できうることで、それがいいコミュニケーションにもなるんですね。今は、核家族を好む人が多いですが、同居してみると、それはそれでいい。遠慮があって、お互いに我慢がある分、いい関係を築こうとできる。そして、人間として成長するためには、そういう関係があった方がいいのかなって感じるんです。

敷地内には、醤油工場の煙突がそびえる

母屋の中、古い山形の家ならではのつくり
でも、横浜の暮らしと比べると、ギャップも大きかったのでしょうね。
最初、ここに来たときには、「うわぁー、田舎!」って思って嫌だったんですけど、しばらくすると、自然の移り変わりを肌で感じることができて、新鮮に感じられるようになったんです。山の色が秋になると変って、稲が段々と青から黄色になっていき、穂を垂れていく様とか、自然を感じながら生きる様子を見るのって、素敵だなぁって思うんです。
漬物をやっていると一層感じることなのでしょうね。
そうなんですよね。「キャベツとキュウリの浅漬けかぁ。ああ、間もなく春祭りだねー」とか「秋も深まってきたから、大根が美味しくなってきたね。もうすぐ冬だね」とか、山形の田舎に暮らす人たちは、漬物を通して、季節の移り変わりを感じているんですね。

なるほど。でも、その漬物がビジネスにまで発展したのは、どうしてなんですか?
それは、産直所で売っていると、みんな、「これ、どうやって漬けるんですか?」って、聞いてくるんです。でも、私は、義理の母から「誰でも漬けられる」って聞かされていましたから、何故聞かれるのかが不思議だった。で、あるとき、ケーブルのテレビ山形の制作者と話した機会に、「漬物の漬け方知らない人って沢山いるんです。そういう番組があったら、楽しいんでしょうね」って、何とはなしにしたんです。そうしたら、「じゃあ、その番組つくりましょう!!」って言うことになったんですね。それが、今の会社名の「さとみの漬物講座」なんです。
面白いものですね。
最初は、母に出てもらうか、手だけの出演ということで、お願いしたんですけど、結局、私が出るハメになったんですね。それで、母に協力してもらって、漬物の漬け方のポイントをデータに取っていって、わかりやすくレシピをつくっていったんです。

『さとみの漬物講座』の冊子、お値段は500円と手頃!!

旦那様の家業とのコラボレーションで生まれた漬物用のたれと醤油
漬物のデータ、をですか?
はい。「お母さん、これ、白菜に対して、塩、どれくらい漬けるんですか?」って言うと、「やんばいくらいだな(大体だな)」って言うんです。要するに塩梅(あんばい)しか言わない。だから、お母さんが持った白菜の手を、塩を盛った手を、止めて、それを秤に置いて、数字を取っていったんです(笑)。この白菜の量に、塩はこれくらいの分量っていう具合です。漬物の場合、専門の本を読んでも、結構、不満が残るんです。「初雪くらいの塩をかけて」とか「梅雨が上がったら、砂糖をまぶして、塩漬けにする」とか、初心者にはよくわからない説明が多い。初雪といったって、山形市内の初雪と、月山の初雪は違う。梅雨の日数だって、その年によって違う。だから、そういう不満をクリアにしていったわけですね。
わかりやすさを心掛けたというわけですね。
はい。そこは自分自身がわからなかったことなので、大事に考えてみたんです。そして、番組をしている3年間、年間24種類の漬物、合計約70種類の漬物のつくり方を紹介したんです。そうしたら、今度は、東北各地のイベントで、漬物の先生としてお呼びがかかるようになっていったんですよね。それで、そういうことをやるんだったら、個人よりは会社にした方がいいということになったわけです。第6回(2007年)の女性起業家大賞の特別賞は、そうしているうちに受賞することになったものです。


素晴らしいですね。それでは、今後は、この漬物の仕事を広げていこうとお考えなのでしょうか?
これは、元々、手づくりの漬物なので、大量生産はできないんです。ウチでは、実際に漬けた漬物を販売もしているのですけど、山形で漬けた漬物を東京に持っていって売ることはできません。1日か2日経つと、鮮度が落ちますからね。普通、製造業者はレシピなんか公開しないんですけど、私は、もう全部、オープンにして、自分でつくって下さいね、というやり方をしているんです。それで、わからなかったら、私を呼んでくださいねって。だから、そんなに肩肘を張っては全然やっていない。でも、もう東北一円はまわったので、関東地方や東京なんかでも「さとみの漬物講座」が開催できて、多くの人に、漬物の良さを知ってもらえたらなぁとは思っています。私のホームページには、誰でも簡単にできる漬物の漬け方が出ています。これをお読みの読者の方にも、是非、挑戦してもらえたら嬉しいです。


取材/鈴木隆文
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