
長崎という街は、美しい街です。決して大きいとは言えない街ですが、この土地は潮風にそよがれ、丘や山の緑に抱かれ、優しくゆっくりと佇んでいます。たった100円でどこまでも乗ることのできる路面電車、長崎電気軌道や珍しい字体の看板を目にしていると、別の時代にタイムスリップしてしまったかのような錯覚にさえ陥ります。こうした異国情緒、昭和情緒の満ちる街で、何よりも郷愁を誘うのは、点々と存在する近代建築と呼ばれる古い建物でしょう。そう、ここ長崎は、近代建築ファンが散歩するには、最高に楽しい街なのです。


銀行建築
「銀行建築」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは「学校建築」や「公共建築」などと同列にできる言葉です。銀行建築は、日本の近代資本主義の顔とも言える建築物。堅牢なつくりがとても印象的です。しかし、それでも、「本物」の風格というか威厳が、建物全体を覆い尽くしていて、建築物としてもなかなか見応えがあります。どの建築物も、「レトロな」という言葉でも修飾できそうな衣をまとっているケースが多いようです。
長崎銀行という近代建築
長崎の街を歩いていて思わず足を止めてしまったのは、長崎銀行でした。中島川と平行して流れる公会堂通りに面して建つ建物です。住所は、長崎市栄町。眼鏡橋と呼ばれる有名な橋のご近所。目の前には、長崎という街の顔と言ってもいい路面電車が颯爽と走っています。長崎という街には、多くのレトロ建築物があります。にもかかわらず、長崎銀行の建物が気になるというのは不思議なことです。あまり声高に何かを主張していない控え目な佇まいと、角地が上手く活かされた屹立感、そして石材を用いた塀のゴツゴツした感触が、何とも言えない魅力を放っているのでしょうか。一体、この存在感は何なのだろう、そう思って調べてみると、この建築物には結構な歴史があるのです。


建物の歴史
建てられたのは1924年(大正13年)、つくりはコンクリート造の3階建。ということは、太平洋戦争で長崎を襲ったあの忌まわしい原子爆弾の火の粉をも耐え抜いたということになるのでしょうか。ただ、これは、長崎歴史文化博物館で所蔵される古い写真の中にある同建築物と見比べてみると、構造自体は同じでも外面はリノベーションをされているように映ります。それでも、構造自体を100年近くの長きにわたり用いられているというのは、なかなかのもの。設計を担当したのは、「末広設計事務所」と記されています。
土地の歴史
さらに、この土地の歴史を溯っていくと、1603年の江戸初期、ここにはサンチャゴ病院があったようです。これは、ルイス・デ・アルメイダという長崎でキリスト教の布教活動をしていたイエズス会士の遺志を継いだボランティア組織、ミゼリコルディアが建てた付属病院だったそう。つまり、江戸時代、ここには、慈愛の精神で身を投じるキリシタンたちが常駐していて、病気をしたり怪我をしたりして集まってくる貧しい人たちのに手当を施していたのです。不幸にも、同病院はキリシタン禁教令によって、取り壊されてしまいます。が、時代移って、その土地に建つのが、現在の銀行建築です。足を止めた長崎銀行の土地というのは、慈善の精神を宿した土地と言えそうですね。


長崎銀行の歩み
ちなみに、長崎銀行とは、どんな歩みを持った銀行なのでしょう。その設立は、1912年11月11日、「長崎貯金」という名称が最初の名前です。その後、1916年に「長崎無尽」、1951年に「長崎相互銀行」と改称。現在の、「長崎銀行」という名称を冠するようになったのは、1989年になってからのことです。長年営まれ、地域の銀行として愛されるには、それ相応の理由もあるはず。そう思って、経営理念なるものを調べてみると、同銀行が創業以来、掲げているのが「地域社会への奉仕」。きっと、変らぬ心で地域の、地元の経済活動を、ポンプ役として担ってきたのでしょう。
地域とともに
今も、その理念は貫かれています。同銀行のホームページでは、取締役頭取の高田浩司氏が、「地域金融機関としての使命をもって、地域に密着し、地域社会の発展に奉仕するとともに地域に支持される銀行をめざして努力を重ねてまいります」と、地域貢献の大切さを強調しながら、経営方針を語っています。「地域に役立つ」という意味において、サンチャゴ病院が想い返されますね。分野は異なれど、偶然にも時代を越えた同じ土地で、通底するテーマを掲げて活動を行っているのが、何だか不思議です。


長崎散歩の楽しみ
長崎は、近代建築好き、レトロ好きには、たまらない街です。神戸に似ていながらも全く異なる瀟酒な建築物が、ポツリポツリと見つけられるのが、長崎散歩のひとつの楽しみでしょう。これから長崎を訪れる機会のある皆さんも、もし気になる建物に出会ったら、ほんのひととき足を止めて、その建物を数枚写真に収め、後でその歴史をひも解いてみることをお薦めします。今回の記事のように、一歩踏み込んだだけで、いろいろと知らぬ事実が浮き上がってくるものです。様々な人たちが行き交った古い建物は、調べるほどに「当時はこんな風だったのかも」と私たちを空想の冒険へと誘います。そうなれば、長崎という街の思い出も、きっと、一層の深みをもって心に沁み入るはずです。是非、試してみてくださいね。


Text & Photos * Except several photos: Takafumi Suzuki
3 Comments
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美しい建物ですね。
古いものを残すのは大変なんでしょうね。
Posted by: Anonymous on September 1st, 2008 at 8:57 pm
長崎銀行で私も働きたいと思います。(・A・)
Posted by: **** on October 2nd, 2008 at 9:47 am
このそばに、あの有名な「眼鏡橋」があるんですよ~。
長崎銀行も趣がありますが、眼鏡橋もありますよ。
川の対岸は「寺町」になっていて、お寺さんが
たくさんありますので、散歩にはぴったり。
Posted by: Anonymous on November 5th, 2008 at 3:17 pm