仙台箪笥:現代の空間に活きる民芸

2008年06月27日 カテゴリー: 宮城県

仙台箪笥:現代の空間に活きる民芸

ヨーロッパ風のアンティーク家具というものには、何とも言えぬ深い味わいがあります。愛媛県に訪れたホテル八千代の館内に設えられていた、ヨーロッパ風のアンティーク家具の数々などは、その代表と言えるでしょう。しかし、私たちは、日本の、古き良き家具というものを忘れてはいけません。今回レポートするのは、仙台箪笥という高級民芸家具です。


木目の美しさが強調された塗り

青い色に染められた塗り

桃色、ピンク色の塗り

朱の顔料が加えられた朱色の塗り

彫金手打ち金具とは、厚さ1.2ミリほどの鉄板に下書きを描いた紙を貼り。上から金槌でたがねを打ち仮彫り。紙を外し。意匠の細かい彫りを加える。そして、鉄板の裏から絵柄を打ち出し、立体感を出すことで瀟酒な文様となる

和なファーニチャー

服、小物、鞄、サンダルなど、最近、街往く若者たちが、「和」という要素をとてもさり気なくファッションに取り入れているのを感じます。長い間、伝統として捉えられがちだった「和」。これが、時代の流れを経てファッショナブルなものとして受け入れられていく様子は、なかなかドラマティックでさえあります。和洋折衷という言葉からは、不自然に和と洋を組み合わせているイメージが拭いきれませんが、新しく時代を拓く世代は、ナチュラルに、感覚的に、和を生活に取り込んでいるという印象を受けるのです。しかし、そうした現象が起こっているのは、何も街という屋外だけの話ではないようです。和の家具、これを上手く生活居住空間におけるアクセントにしようと試みる人たちの数も増えてきているようなのです。

若者が買う民芸家具

「ウチの箪笥を買い求めに来るお客さまの中には、本当に若い人たちが増えています。そして、そういうお客さまは、私たちがお手本にしたくなる位に、空間づくりが本当に上手なんですよ」。

そう語ってくれたのは、仙台箪笥を見事、現代に蘇らせた家具メーカー欅産業の副社長で、同社創業者の長女、大原敦子さんです。ところで仙台箪笥って何でしょう?

漆の塗りと金具の造形が見事に調和しています

漆の色が深く、光の当たり方で色が変化します

仙台箪笥

その土地の名を冠した箪笥。その言葉の響きには、土着の感じと伝統の重みがずしりと漂っています。それは良くも悪くも、その言葉を耳にする人たちに、何か巨大なものを連想させるはずです。それもそのはず、仙台箪笥はまさしく重い歴史を背負った高級民芸家具なのですから。仙台出身の人に尋ねてみると、半分位の人が、確か実家や祖父母の家に置いてあったと答えてくれます。仙台人の住居には、一台の仙台箪笥が設えられているのが当然という時代があったのでしょうか?

発明は伊達藩の武士?

仙台箪笥の成り立ちには、諸説あるようです。しかし、有力な説としては、幕末にはじまったのではないか、というもの。伊達藩(仙台藩)の下級武士が内職仕事として、武家用の箪笥としてつくりはじめたのが、その起源というわけです。

「箪笥という家具が一般的になったのは、実は、それほど昔のことではないのです。それまで、衣服は竹製の行李、木製の長持つづらなどにしまわれていました。そもそも裕福な家には、衣服を収納する倉庫のような専用の空間があったそうですし、庶民は着物自体を何着も持っていなかったので収納家具自体が必要なかったそうですね」(大原さん)。


表面に丹念に塗られるのは漆

平均半月以上もの手間を掛けるのは、漆独特の深みを出させるため




前板には欅、内部には桐材が用いられている

引き出しの部分も熟練の職人がひとつひとつ丁寧に仕上げる




飾り金具を彫金の手法でつくる場合、職人さんが手づくりのタガネ数十種類を使い分け、気の遠くなるような工程を繰り返す。

竜、獅子、牡丹などの伝統的な図案の他にも、オリジナル図案や家紋などの図案を設えることも




武士から職人に、武家から庶民へ

仙台箪笥が一般に広まるようになったのは、明治の頃です。時代のうねりの中、職を失うことになってしまった武士たちは、きっと必死だったのでしょう。仙台箪笥をつくる専業職人となり、格の高い家のためだけの箪笥づくりに留まらず、一般家庭のためにも箪笥を売るようになったわけです。ですから、仙台箪笥が仙台市で大きく広まったのは、この明治の時代だったと推定できるわけですね。それにしても、武士という位にあった人が職人となり、武家やお金のある商人ばかりにだけではなく、市井の庶民をお客さんとして、商いを営む状況が生まれるわけですから、なかなか激しく社会が移り変わる時代だったようです。

仙台箪笥のユニークさ

仙台箪笥をはじめてパッと目にして、多くの方が感じる印象は、「重厚感がある」「いかめしい」「トラディショナル」などといったもののようです。それは、仙台箪笥には、独特の威厳が漂っていて、それを感じ取ってのことなのでしょう。そして、その印象を形成する重要な装飾要素となっているのが、「漆塗り」と「飾り金具」です。しっとりとしながら、ピカピカと艶めき、当たる光の種類によってその表情を変化させる漆塗り。龍や牡丹、唐獅子などの細やかな模様をあしらった飾り金具。この2要素があることで、仙台箪笥の外観ははじめてその個性を放ちはじめるのです。第一次世界大戦のときには、仙台で捕虜となったドイツ人たちが、帰国時にしきりにこの箪笥をお土産品として買い求めたという逸話も残っているほどです。多くのクラフツマンたちが高い技術を競う国、ドイツ。その国から来た兵隊さんたちのお眼鏡にかなう家具、それが仙台箪笥となるわけです。見る人たちを圧倒する存在感を宿した家具だということは、実際に家具を見てみれば誰にだって理解できるはずです。

仙台箪笥のショールームの横にあるカフェ


大原敦子副社長

店内の様子。本物の仙台箪笥を目にできる




欅産業

今回、仙台箪笥という、何やら謎めいたキーワードの背景を求めて訪ねた欅産業は、「古き良き伝統家具」を現代の製造法、現代の流通を通じて、現代の生活に適うプロダクトへと磨きあげてきた会社です。

「元々は、父のものづくり好き、東北の工芸品好きが高じて、東北の工芸品を扱うお店をやっていたんです。それが気がついたら、父は仙台箪笥というものに傾倒して、名うての職人さんたちとの話し合いを重ねながら、家具づくり、つまり家具製造をはじめていたんです(笑)」(大原さん)

話を伺っていて驚いたのは、創業者である大原さんのお父さんは、全く違う土地からここへやって来て、仙台箪笥の伝統とはまったく違った分野から、この難しい伝統工芸のものづくりという世界を開拓していったということでした。これぞまさに好きこそものの上手なれ! 相当な情熱家にしか成し得ぬ一大事業ですね。


ひっそり仕舞える浅い収納スペース

前の引き出しを抜き切らなければ、存在自体に気付かない引き出しが、もうひとつ

奥にある秘密の引き出しはロックできるカラクリになっている

引き出しの中にある秘密のスペース

ひとつ、何百万円もの価格!

「仙台箪笥というものは、基本的にはもの凄い高価な家具、価格が記載されたカタログなど存在しない家具だと考えられています。それこそ、ひとつ(=ちなみに、箪笥の単位は一棹と言うそうです)何百万円もするような価格で売られ、すべて手作業でつくられるので、家具が届くまでには一年も二年も待たなければいけない、そんなイメージをお持ちの仙台人は多くいるはずです」

なるほど、調べてみると、実際にそうした商いを営まれているメーカーもあるようです。お金を使う側の立場から考えると、なかなか近寄り難い、敷居の高い商品として映ります。そんな中、欅産業が仙台箪笥という民芸家具を扱いながらもユニークなのは、消費者にモノが届けられるまでのプロセス(製造・卸し・小売)を試行錯誤し、一般の人にでも手の届く、生活家具に仕上げている点でしょう。

民芸家具を身近にするいろいろな仕掛け

「弊社の仙台箪笥は、10万円代でも買えるものもあります。そしてオンライン販売やカフェの運営を通して、お客さんたちが、仙台箪笥というものをより身近に感じてもらえるような仕組みづくりをしているんです。伝統は守っていくことも大切ですけど、やっぱり外に目を向けることも大切だと思うんです」(大原さん)。

このメーカーが取り組んでいることを眺めていると、確かにいろいろな点でのさまざまな努力が見え隠れしています。それは例えば、次のようなものになります。安価な価格でお客さんへ届けるために、飾り金具に2種のバージョン、漆塗りに3種のバージョンが用意されている。お洒落なカフェの空間からシームレスにショールームを見渡すことができ、気軽に商品の現物を見ることができる。カタログとネットに価格が表示されており、自分の懐と相談しながら、気軽にショッピングを楽しめる。


特注の仙台箪笥

中には仕切りがあり、スペースが3分割されている




流通に乗せて次代へ

「私は、昔はヨーロッパやアメリカから来る輸入家具にとても興味を持っていた時期があったんです。でも、日本人の生活スタイルを思い浮かべると、ロココ調家具で納豆を食べたりするのは、やっぱり何か違和感がある(笑)。それを考えると、日本で生まれた物の方がやはり日本人の生活に溶け込むのではないか、そう思うんです」(大原)

冒頭でも触れたように、現在、同社のさまざまな仕掛けが功を奏してか、若い人たちにも仙台箪笥に興味を持ってもらえるようになってきていると言います。高級民芸家具を一般性のあるものへと高め、若い世代にも伝えていくという仕事には、当事者にしかわからないしがらみやさまざまな難題もありそうです。しかし、「良い文化を流通に乗せ未来へとつないでいく」という意味合いにおいては、なかなか興味深い、意義あるテーマを背負った会社でもあります。欅産業さんには、民芸家具の新しい時代を伐り拓くためにも、今後、一層の活躍を期待したいものですね。

フローリングの上に設えられた仙台箪笥。不思議な存在感をあたりに醸す

朱色の箪笥は、空間に華やぎを与える

Text & Photos : Takafumi Suzuki *Except several images

コメントをお書き下さい

  • Share and Enjoy:
  • del.icio.us
  • digg
  • Fark
  • NewsVine
  • RawSugar
  • Reddit
  • YahooMyWeb
以前の記事