福を招く群青のだるま:松川だるま

2008年06月13日 カテゴリー: 宮城県

福を招く群青のだるま:松川だるま

青いだるまさんというものを見たことがあるでしょうか?キラキラと目映い色彩、四方八方に解き放たれる妖気。仙台に伝わる松川だるまは、衝撃的なビジュアルとオーラを宿した幸運のだるまです。人と人の出会いを結ぶ、両の目を見開くだるまさん、彼はどこから幸運を運んでくるのでしょう?

いろいろなサイズがあります

幸運呼ぶだるま

私たちの生活のそこかしこで見かける、だるま。しかし、このだるまの何たるかは、案外、知らないかもしれません。だるまとは、漢字では「達磨」と表記します。そしてこのだるまさん、生まれ故郷は南インド、生を受けたのは西暦382年。仏教を異国の地、中国で広めた冒険的な人物でもあったようです。現在、世界中で「ZEN」として知られる禅は、実は禅宗の開祖でもある、だるまさんが発案したものと言われています。目標を成すためには、我慢強く事に取り組むという意味を持つ「面壁9年」という言葉も、だるまさんが悟りを開くのに、9年間、壁の前に座禅をし続けたという逸話から生まれた故事です。ちなみに、だるまに手足がないのは、不動のままに座り続けた、この9年間に、本人の手足が腐ってしまったから、という説も残されています。

伝説の人物の魂宿す

とはいえ、この偉人、150歳まで生きていたということが、いにしえの書物(『洛陽伽藍記』)には残されていますから、これを信じるなら、本当に偉人だったのでしょうね。そんな偉人にあやかりたい、そんな想いがダルマという縁起物を生んだわけです。そして、このだるまという縁起物の興味深いところは、銭にシビアな商人たちを中心に愛され、今も、多くの商人やビジネスマンたちの心のよりどころになっているというところでしょう。「座禅」という崇高な世界と「ご利益」という世俗の世界とが結びつけられている点が、何ともユニークです。心の広いだるまさんの魂は、崇高なものだけではなく、庶民の生活の願いだって聞き入れてくれるということなのでしょう。

1887年の月岡芳年の木版画『達磨図』

日本一派手なだるま

さて、そんなだるまさんスピリットが入魂されたものの中には、珍しいものも多くあります。黒色、緑色、白色、黄色、とそのバラエティーの豊かさには、目を見張らんばかりのものがあります。しかし全国のだるまを並べても、最も目立ち、最もオリジナルなビジュアルを放つのは、きっとこの群青色のだるま、松川だるまをおいてほかにはないでしょう。日本一派手なだるまと言っても決して間違いではないはずです。筆者は、ここに日本の四季折々の美が織り交ぜられているように感じ、どうしてか福島県磐梯熱海にある四季彩一力美しいインテリアを想い浮かべました。では、一体どうして、松川だるまは、こうまでに派手なのでしょう? それにどうして、最初から両目に黒目が入っているのでしょう? 

松川だるまの歴史

これに答えてくれたのは、松川だるまの歴史を受け継ぐ「本郷だるま店」の本郷尚子さんです。

「仙台は伊達藩の土地です。伊達政宗は派手好きで知られた武将です。その伊達藩の藩士のひとりであった、松川豊之進がつくったのが、松川だるまなのです。こういう色彩豊かで、両目の描かれただるまも珍しいですよね。これには、片目だった政宗の、両目でしっかりと全方位を守りたいという想いが込められているようですね」(本郷尚子さん)。

松川だるまが、「派手好き」「独眼竜」という言葉が浮かぶ、伊達政宗の元で生まれたというのは、合点のいく話です。四方八方を両の目で、しかも景気の良い出で立ちで守ってくれる。面壁九年、じっとして、つまらぬ思いをしていただろうだるまさんの魂が宿るハコとして、これほど素敵なところがあるでしょうか。あの伊達政宗のお眼鏡にかなったというだけでも、縁起物にふさわしい逸品であることは間違いありません。

夫婦ふたりで息のあった作業をする

本郷尚子さん

本郷久孝さん

だるまに守られた人生

ところで、今回、「本郷だるま店」を取材に訪れた際、実はこのお店の看板役でもあった9代目の本郷けさのさんが83年の生涯に幕を下ろしたばかりでした。

「”だるまさんが守ってくれるから”という言葉をいつも口にしていた人でした。明るくて、前向きで、お洒落が大好き。子供たちからも、遠方に住むおじいちゃん、おばあちゃんたちからも、みんなに愛される人だったんです。だから、いつも感謝の気持ちで、だるまづくりに勤しんでいたんですよ」(本郷尚子さん)

そう懐かしむように、愛おしそうにけさのさんの話をするのは、旦那さん(本郷久孝)と共に10代目を継ぐことになった、先述の尚子さんです。彼女の話を聞けば聞くほど、けさのさんに会ってみたかったという想いが沸いてきます。しかしそれは、つまりは大往生をしたということの証でもあるのでしょう。やっぱり、だるまさんが守ってくれていた人生だったのでしょうか?

江戸時代から伝わる製作法の基本は、いつの時代も同じ

だるまづくりに採用される張り子の技術が用いられたお面で遊ぶ子供

人と人をつなぐ

「本当に不思議なことがいっぱいあるんですよ。おばあさん(本郷けさのさん)が、亡くなった後も、不思議といろいろな縁ある人たちが、偶然にいろんな場所で巡り会わされたりするんです。病院のお医者さんや看護師さんが、実は、おばあさんのつくった松川だるまにお世話になったことがあったりね。他にも、子宝に恵まれた、入試に受かった、会社が持ち直した、良縁があった、なんていう知らせは、毎年、沢山寄せられるんですよ」(本郷さん)
 

松川だるまは、どこかで人と人の巡り合わせを演出しているのでしょうか。学生たちを引寄せた話、沖縄の人を引寄せた話など、本郷だるま店の松川だるまを通じて、いろいろな人と人が巡り会う様子を聞いていると、「そういうこともあるものか」と、不思議な気持ちにさせられます。ならば、松川だるまを何十年もつくり続けた、けさのおばあちゃんがだるまさんに守られないはずもない、そんな気にさせられるのです。

いかにも頼りになる、福を呼ぶ顔つきの松川だるま

だるまを買おう!

本郷さんによると、松川だるまを買う人は、おおよそ3種類に分類されるそうです。信仰の厚い人、仙台土産として買う人、それから、だるま研究をしている人。しかし、その3種のどの人たちにも、きっと共通することは一つのはずです。それは、皆さん、この松川だるまに魅了されているということです。このだるまの存在感を目にしたら、知らんぷりして、家路につくことなんて、なかなか出来るものではありません。ちなみに、本郷だるま店で一年間につくるだるまの数は、約4000から5000個。およそ、その数のだるまが、福を招いていると考えると、少し楽しい気持ちになりませんか? このだるまさん、家に置くと、圧倒的な存在感を放ちます。そして、家の中が何だか明るい空気で満たされるのを感じるはずです。読者の皆さんが、3種類のどこに分類されるかはさておいて、これは、注文する価値がありそうな縁起物です。巷では、お取り寄せグルメが流行っていますが、お取り寄せ縁起物というのも、なかなか悪くなさそうです。無病息災、家内安全、商売繁盛、良縁成就!ちなみに、値段もお手頃ですよ。

工房にずらりと並ぶ松川だるま。圧巻!

Text & Photos : Takafumi Suzuki * Except several images

コメントをお書き下さい

  • Share and Enjoy:
  • del.icio.us
  • digg
  • Fark
  • NewsVine
  • RawSugar
  • Reddit
  • YahooMyWeb
以前の記事