
愛媛県にある宇和島という地名を耳にしたことがあるでしょうか?この土地をひと言で表すなら、「海の街」と言い表すことができます。宇和島港にほど近い街には潮風が漂っていますし、この街にある飲食店のおすすめメニューは、じゃこ天や鯛飯など海鮮食材を用いた料理です。今回は、この宇和島という地で、長きにわたり、こだわりの真珠づくりを行ってきた松本真珠を訪れました。ナチュラルホワイトパールと呼ばれる、無調色の真珠を生み出した人物が宇和島の海を案内してくれました。シゴトの合間のほんのひと息、宇和海のクルーズをお楽しみください。


宇和島の海はどんな海?
JR予讃線の終点駅となる宇和島は、四国という大きな土地の西側の海岸沿いに位置しています。海と山に恵まれた豊かな土地です。緩急のある地形は特徴的で、車でも列車でも、移動している人はその風景の移ろいを満喫できるに違いありません。ちなみに、筆者は、宿泊していたホテル八千代から、車で約2時間の道のりを存分に楽しみました。三方から囲むのは、1,000メートル級の山々、西側に広がるのは、穏やかな海面をたたえる宇和海です。そして、その海岸はリアス式海岸と呼ばれるものです。リアス式海岸というのは、簡単に言えば、複雑に入り組んだ、ギザギザの入り江のことを指して言います。波が低くて、水深が深いため、漁港や養殖に用いることに適しています。もちろん宇和島の海でも、漁業と養殖は盛んで、この街の主な産業でもあります。中でも、養殖では、ハマチやマダイの生産量が日本で第一位を競うほどなので、なかなかのものです。しかし、もうひとつ、忘れてはいけないものがあります。それは、宇和島の海が日本はもとより、世界に誇る真珠です。


海で穫れる宝石、真珠
宇和島が、真珠の産地として適しているのは、やはりこの土地の地形に関係があるようです。この地を車と船とを自在に操って案内をしてくれた松本愼二さんは言います。
「ここは山が高いでしょ? そうすると、海は深くなるんですよ。海が深いということは、四季の寒暖が厳しくなるから、良い真珠がつくれるんです」
真珠は、アコヤ貝という、貝から生まれます。このアコヤ貝を、母貝つまり母親となる貝として、利用することで真珠は生まれるのです。そして、そのアコヤ貝を養殖するための海として、宇和島の海の環境は、最高であるというわけです。確かに、湾の中にある母貝の養殖場は、波静かで穏やか。にもかかわらず、四季が厳しい。ここでは、貝たちも鍛えられそうです。


真珠ができるまで
では、ここで簡単に真珠がいかにして誕生するかを見てみることにしましょう。まず、先に説明したアコヤ貝を養殖場で、ある程度の大きさにまで育てます。そして、このアコヤ貝に、貝の殻を丸く削ってつくられる核と呼ばれるものを挿入します。さらに、ここに細胞の一部を切り取ったピース(外套膜)と呼ばれるものを入れます。すると、アコヤ貝の中では、核の周囲でピース(外套膜)が増殖して、真珠層というものを形成されるわけです。核を巻くようにして真珠ができる。なんだか、真珠の卵のようなものを、アコヤ貝の身体の中で孵化させるみたいで面白いですね。核とピースを挿入されたアコヤ貝は、海の中へと戻され、1年の間、体に抱いた核を真珠へと育てるのです。1年後、海から揚げられて、貝の中から真珠が取り出されるなんて、本当に不思議ですよね。


真珠と日本人
ところで、人間が真珠という存在に心を奪われるようになったのは、古い古い大昔の話だということは、案外知らない事実かもしれません。エジプトでは紀元前3000年以上前から、中国では紀元前2000年年以上前から、ペルシャやローマでも紀元前から、真珠に関する記録が残っています。日本の古い書物にも、真珠に関する記述は多く残されています。魏志倭人伝、日本書紀、古事記、万葉集などに、その美しさを讃える人々の心が残されているのです。真珠は、ピュアな白さを球体にたたえながらも、受ける光によって、その表情をたえまなく変化させます。実物を見てみると、「月のしずく」「人魚の涙」などのロマンティックな形容詞も、決して大袈裟なものではないと、うなずけます。しかも、真珠は天然でも養殖でも、大自然、大海原から採れる宝石です。月光を浴びる海の中に、煌めきを秘めた貝が眠っていると考えるだけでも、何かロマンティックな気分にさせられはしないでしょうか?

真珠に生きる男
今回、宇和島の海を案内してくれた松本さんも、真珠に魅せられた人物のひとりです。彼の真珠づくりにかける想いは、熱をはらんでいます。
「日本の真珠業界では、養殖屋は養殖屋、加工屋は加工屋、販売店は販売店というカタチでほとんどが分かれてしまっています。でも、ウチは、面倒でも、養殖、加工、販売までを一貫して行っているんです。その方が、気持ちも入りますし、本当のことを説明して、本物を売ることができるからです。流れを全部やるのは、キツイことなんですけど、乗り越えていく価値があることなんですよ」(松本社長)
松本さんは、松本真珠という真珠メーカーを率いる3代目です。
「僕は、宇和島から、日本中に知られるような真珠ブランドを育てたいと願っているんです。大きくなくても、品質が高くて、つくり手のこだわりが伝わるようなブランドとして、世間の人に知ってもらえるようになったら嬉しいですね。そのためには、やはり商品開発が大切なんです」(松本社長)
やはり、「ブランドづくり」の前には何よりも、「ものづくり」をしっかりやらなければいけないのは、どんな世界でも同じようです。
では、ここ、松本真珠では、どんな商品開発を行っているのでしょうか?

ナチュラルホワイトパール
長らく取り組んできた松本さんの商品づくりの中でも、ひと際目立つのは「ナチュラルホワイトパール」と呼ばれる真珠です。
「真珠というものは、生き物の体内で生まれるものであるために、多くは真珠になることはありません。たとえ真珠になっても、傷や汚れが目立つなど、さまざまな状態で生まれてくるものです。そこで、真珠業界で行われているのは、”漂白処理(シミ抜き)”と”調色処理(色ムラを整え、同色相に整える)”の2つの作業です。真珠屋さんは、汚れたまま生まれてくる真珠の化粧直しをしてあげるわけですね。これは、真珠を商品にするためには欠かせない作業。漂白処理した後の真珠は、本来の色相が出てきて、透明感が出てきます。しかし、2つの作業のうちの後者である調色処理では、色ムラを整えられるのは良いのですが、若干ながら、透明感が奪われてしまうんですよ」(松本社長)

選別のポイント
なるほど、このあたりは、さすがに真珠は生体鉱物なのだなあと、改めて気付かされます。貝のお腹から出てきた真珠は、人々の生活に入るために、多少なりとも手を加えられなければならないわけです。ところが、松本社長は、この工程をよりシンプルなものに、手の加えられていないものにすることで、本来の白い輝きを宿らせた真珠づくりを模索します。そして、その模索の結果、辿り着いたのが、松本真珠のオリジナル商品の「ナチュラルホワイトパール」と呼ばれる真珠だったのです。
「ナチュラルホワイトパールは、原料珠の段階で厳しい選別をするんです。真珠は、巻き(厚さ)、照り、傷、色、形などが、良い真珠と悪い真珠を見分けるポイントになるのですが、それらの点から選び抜かれたものだけを製品づくりのための原料珠とするんです」(松本社長)

真珠の限定品
ナチュラルホワイトパールを生産できる数量は、年間で1,000本程度と限りがあります。松本真珠の珠の年間総計が60万個といいますから、選ばれし真珠となるのはほんのひと握りだということがわかると思います。農林水産大臣賞も受賞している真珠なので、その品質の良さはお墨付きでもあります。実際に、少し作業現場をのぞかせてもらっただけでも、この真珠屋さんが、素材にこだわり、一粒一粒に丹精を込めて真珠づくりを行っていることは伝わってきます。
「やはり貝は生き物ですからね。本気で取り組まないとなかなか簡単にはできないですよ」(松本社長)
珠入れをしたものの、数日後には全滅していることなどもあるそうです。だからこそ、浜揚げのとき、貝の中に美しい真珠が顔をのぞかせるときは、感動もひとしおのようです。

研究は今日も続く
太古の昔から愛されてきた真珠という宝石。この宝石を身につけることが、長い間、女性たちの心を踊らせてきたことに違いはありません。貝の大量へい死問題があったり、中国の量産真珠が出回ったりと、今、日本の真珠の世界は、必ずしも快調というわけではなさそうです。それでも、そうした向かい風をもろともせずに突き進んでいく松本真珠のような真珠屋さんがあると知るのは、嬉しいことです。何しろ、真珠の養殖技術を発見したのは、日本人なのですから。
「今は、愛媛県の水産試験場と一緒にいろいろな研究をしています。もう少ししたら、今までに見たことがない真珠が発表できると思いますので楽しみにしていてください」(松本社長)

真珠の未来
現段階でオープンにできない情報がある、しかも、今までになかったもの、それは大変気になりますね。一体どんな真珠が生まれてくるのでしょう。古き良き美しさを今に伝える真珠が、職人さんたち、そして松本さんの手の中で、どのように進化を遂げたのか、是非、目撃したいものです。
この情報は、2008年6月某日に松本真珠のホームページで発表になるので、気になる人はチェックしてみてくださいね。「真珠の美」に全身全霊を込めて取り組んだ男の結晶とは、いかなるものでしょう。ちなみに、真珠は、今や女性だけのものという考えは古いようです。
「男性の方にも身に付けていただきたいんです。意外に、男の人のファッションにも合うんですよ」。
この言葉は、松本真珠で営業や広報などを担当している長女の松本尚子さんの言葉です。この人物、元々、ファッションを学び、その後、ファッション業界でも経験を積んできただけに、言葉に重みがあります。
なるほど、言われてみれば、確かに真珠の美しさは普遍性のあるものです。男性は、女性へのプレゼントとしてばかりではなく、自らを飾るファッションアイテムとして、手に取るのも悪くなさそうです。この機会に、日本が世界に誇ってきた真珠というものをいろいろな角度から見直してみる価値はありそうです。少なくとも、多くの人が、厳しい自然から生み出された不思議な色合いに幻惑されるのではないでしょうか。

Text & Photos :Takafumi Suzuki
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色んな日本があるんだなあ、と知らされます。
各地の情報をこれからも発信し続けてください。
Posted by: Anonymous on May 12th, 2008 at 10:07 pm