
『加賀日和』という素敵な雑誌が、凛とした佇まいで置かれています。筆者が、この雑誌を見つけたのは、ホテル・アローレの館内にあるお土産ショップでした。石川県の南加賀という地域についての情報を美しい写真とともに紹介する、地域密着型の月刊誌です。一体、随分と良いセンスを発しているこの雑誌、「一体どんな媒体なのだろう?」そんな想いから、同誌の編集長にお話を聞く機会を得ることができました。

南加賀はどんなところ?
この雑誌がスポットを当てる南加賀は、川北町、能美市、小松市、加賀市をひとつの大きなくくりで呼んだ地域名です。イメージを掴んでもらうために、それぞれが、どんなところか、ざっと説明をしておきましょう。 川北町は、日本一の高さを誇る「大かがり火」を彩る北陸最大の花火大会「手取りの火まつり(川北まつり)」などで知られる町です。能美市は、なんといっても松井秀喜選手です。彼の出身は、能美市の中にある根上町とういう小さな町。世界的な野球選手が出た土地ということで、ここには「松井秀喜ベースボールミュージアム」という博物館まであります。小松市は、伝統工芸と機械工業で知られる市です。中でも、それぞれの産業で、特に知られているのは、九谷焼と建設機械のコマツでしょう。コマツの方は、皆さん、日頃、工事現場などで目にしているので、よくご存知のことと思います。建設機械をエンターテイメントとして紹介するケンキ王国というサイトもあるので、一度、のぞいて見ると知られざる世界を知れて楽しめるはずです。特に男性は、幼少の頃を思い出して、ウキウキした気分にさえなるかもしれません。そして、加賀市は、温泉地として知られ、観光の見所が随所にある場所として知られます。開湯1000年以上の歴史を持つ片山津温泉や山代温泉、そして鶴仙渓、越前加賀海岸国定公園などのある、楽しいところです。

10号以上を数え、定期購読者も増加中

特集が「女将と歩く秋の山中温泉」、とてもいい響き
五感を刺激する地域情報&叙情誌
『加賀日和』という月刊誌は、前出の地域を情緒的かつ愉しく伝えているわけです。もともとはブログだったものが、じわじわと広がっていったということもあって、雑誌という形で発行されているものです。現在、徐々に定期購読者も増えてきている様子。記事の内容も骨太です。北前船、山中温泉、大聖寺の街など、東京や大阪のメディアが取り上げないようなトピックスにページを割き、五感が刺激されるような美しい写真の数々と簡潔で読みやすい文章で構成されています。パッと手に取るだけで、知らない土地の魅力が満ち満ちていて、ついつい誌面に吸い込まれてしまいます。ここには、情報と情緒のどちらもがあります。この雑誌に目を通したら、「ああ、加賀という土地はなんて魅力的な場所なのだろう」、ほとんどの人がそう思うのではないでしょうか。

ダンディーな雰囲気を持った高柳編集長

美しい写真が目を引く誌面
蛍の飛ぶ小川
実際、他の土地の人が、この土地に足を踏み入れたなら、たいていの人は雄大な、この土地の空気感に心地よさを感じることでしょう。ところが、意外なことに土地の人にとっては、「灯台下暗し」で土地の魅力に気づいていない人が大勢いるようなのです。そんなことを話してくれたのは、この『加賀日和』の編集長をしている高柳豊氏です。高柳氏は、土地に根ざした同誌の創刊、そして運営を行いながらも、この土地の出身者ではありません。「僕の出身は、富山県氷見市というところで、学生時代は関西、社会人になってからは東京、金沢で生活を送ってきた人間です。そんな僕にとって、加賀という土地はとても魅力的に映ったのです。だから、今、こうして雑誌を運営している。でも、加賀にずっと住んでいる人には、こんなに素晴らしい土地の魅力が、当たり前の景色だから、わからないんですよ」。たしかに、前回の記事でお伝えしたホテル・アローレの総支配人(東京都出身者)も「この土地では、時期によっては、夜、蛍が小川に普通に飛んでいるんですよ」と、都会では味わえないこの地の魅力に驚きを隠せない様子でした。

手織りストラップ

九谷焼オセロ
自分の土地を愛すること
高柳編集長の願いは、そんな加賀の土地の魅力を、まず地元の人たちに気づいてもらいたい、というものです。「自分の土地をまず愛すること。そうすることではじめて、それぞれの土地の魅力は、その土地以外の人たちにも伝わるものです。特に加賀は、自然も温泉も工芸も豊かな土地です。そこにはいろいろな可能性が秘められているのだと思うのです」。そう、魅せられた加賀の魅力を語る高柳氏です。

編集長、ものづくりに挑む
しかし、彼が、そうした土地の魅力を伝える手段は雑誌だけではありません。その点こそが、彼の活動のユニークなところなんです。彼は、雑誌の取材を通じて知り合った人々とともに、今の生活にあった「ものづくり」を試みました。九谷焼、五彩、山中漆、加賀染などの伝統の技術を現代のライフスタイルにマッチさせようとする商品開発です。こういうことって、夢想はできても、なかなか行動に移せることではないように思います。何と言っても、頑固な職人さんと折り合いをつけなければいけませんし、流通やら在庫やら販売やら、モノをつくるということは、その面倒な仕組みづくりまでしなければいけないことなので、膨大なエネルギーを要することなのです。

丹精が込められた作業

匠の技から、彩りが生み出されているわけです
匠の技を生業に
でも、高柳氏は、言わば、「外の人」です。それにも関わらず、果敢に難関に挑むその姿勢は、尊敬に値することだと思います。その元の根っこにあるものって、どんなものなのでしょう。「そもそも、これだけ手に職を持った人たちが、その匠の技を生業に出来ないというのは、とてももったいないことだなあ、そう感じたのが最初です。実は、意外なことなんですけど、加賀という土地は、金沢よりも人口比から数えると職人さんの数が多いんですよ。でも、やっぱり土地の良さは、その土地に生まれ育っていない人の方が良くわかるのではないでしょうか」(高柳氏)。長い歴史を背負った高い技術を持った人が多くいる。その技術をうまく「今」という時代に活かしたい。それを外からの視点で見つける。それは、よくよく考えてみれば、ごくごく自然な発想の流れなのかもしれません。

ユニークな商品
高柳氏が、デザイナー、そして職人とのコラボレーションでつくり上げるブランドの名前は、「侘助」。まだ、はじまったばかりの地域のブランドではありますが、何か新しいウネリをつくってくれそうな予感を感じさせるブランドです。高柳氏が目指すのは、これをしっかりとした商いの仕組みの中に落とし込むこと。まだ、黎明期ではありつつも、次々と新しい商品を生み出している活発な動きを見ていると、何だか、期待が高まります。紅柄(べんがら)染め、漆染め、藍染めなどの手染めコンバースシリーズ、そして九谷焼オセロや九谷焼きボタン、カメラ用の手織りストラップが、現在の商品です。出だしにしては、なかなか良いラインナップ。そして、同ブランドのキーワードとなるのは、「日本の伝統色」「自然染料と自然顔料」です。化学染料と合成染料を一切用いず、時間の流れとともに味わいを出す自然な色で商品を染めていく。これは、時代的にもうまく、フィットしているように感じられます。

草木染めから生まれるのは、こんな商品

草木染めの様子
加賀の明日
元々あった加賀という土地の良さを引き出しながら、さらに新しい照明を当てることで、新しい価値を生む。商品そのものの魅力もさることながら、その活動も魅力的。そして、ひとりの生活者としては、実際に職人の匠の技を目にすると、こんな技、そして心が込められたモノを日々の生活で使えたら、楽しい気分になるのだろうな、使ってみたいな、とそんなことを考えさせられるのです。雑誌『加賀日和』と新ブランド『侘助』、これら2語のコンビネーションは、古めかしい言葉でありながら新しいもの、まさに今めかしい組み合わせです。このふたつの単語が紡ぎ導く加賀の明日は、さて一体どんな風なものでしょう。何だか気になるところですね。

2 Comments
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九谷焼ボタンって初めて知りました。
番手の高い生地で、おしゃれな白いシャツを誂えて、ボタンホールのステッチ糸は九谷焼ボタンの色具合に合わせたいものですね。
Posted by: willow on March 3rd, 2008 at 8:19 pm
私も「加賀日和」読んだことあります。
すごくちゃんとした素敵な雑誌だったので驚きました。
加賀文化は現在にも生きているということですね。
Posted by: Anonymous on April 9th, 2008 at 9:22 pm