
“古材 X 恊働”
東京駅から京葉線に乗ってたった10分のところにある新木場駅。あまり実体の知られないこの駅、実は、さまざまな遊び方ができる駅です。その遊び方の詳細は、いずれレポートする”ファミリーロッジ旅籠屋・東京新木場店を巡る冒険”の回に譲ることにして、今回は、遊びの前のお勉強。新木場の産業観光をレポートしてみたいと思います。そう、新木場の産業と言えば…。

風合い求める現代人
「古民家再生」という言葉が、メディアをにぎわしたのは数年前。今は、その熱も一時の勢いを失って、穏やかさを取り戻しつつあるようです。しかし、それでも現代を生きる私たちにとっては、古民家や古材という風合いを持ったものが魅力的に映ることに変わりはないことです。古民家風の飲食店に人気が集まったり、古材を用いた椅子や机を中古家具店に求めたりなどの現代人の行動が、その何よりもの証です。
古材に着眼
そして、人々の注目が集まれば、それを仕事にする人が出てくるのは世の常です。古材の場合、「古材商」という呼ばれ方をする商人が、それにあたるのでしょう。「古い材木を売る人」と捉え直すと、何ともミステリアスな商売です。今回、訪ねたのは、そんなミステリアスな商売を営んでいる「ひでしな商店」とう古材商店です。同店の商品を見ると、何だか材木屋とは思えない、かわいらしい家具もつくっています。しかし、彼らが営んでいるのは、単にかわいいだけのものを売る商いでもなければ、システム化された流通方法を構築する材木店ネットワークでもありません。彼らが、考え、行っているのは、いたってシンプルなことです。それは、「お客さんのために古材のもっともいい使われ方を考え、提供していく」ということ。では、実際には、どんなことをしているのでしょう。

古建具を組み合わせてつくられた食器棚

大胆に古材が用いられたW邸の玄関
ひでしな商店とは?
ひでしな商店があるのは新木場です。新木場というところは、その漢字からも大体の想像がつくように、木材の置き場所、つまり貯木場として栄えてきた土地です。100万都市江戸の繁栄を担っていた深川木場は、江戸の豪商を生んだ土地。この地の後を継ぐ形で、その役割を割り当てられたのが新木場という土地なのです。この地で、ひでしな商店を営む人物が、小林秀樹氏です。 同店で扱っているのは、床柱、床板、煤竹、柱、梁、蔵戸、格子戸、板戸、ガラス戸、襖、障子などの古材、古建具。同店が取り組む商いのひとつは、上に列記した古材、古建具をどこからか収集してきて、販売するということです。そして、もうひとつの商いは、オリジナル家具を創作し販売するということです。では、こうした商いは、どのような発想から生まれたものなのか。店主、小林氏に聞いてみました。
古材商をはじめた意外な理由?
「元々、私自身、古材や古道具の風合いには、強く惹き付けられるものを感じていました。それで、個人的な活動として、そうした古材、古建具、古道具といったものはずっと趣味の範囲で集めていたのですね。だから、古材には強い愛着は持ってました。でも、古材商をはじめたのは、何か特別な計画のもとにではありませんでした。ひと言で言えば、成り行きとしか言いようがありませんね」(小林氏)。

ひでしな商店の代表・小林秀樹氏

古材一本一本に対して深い愛着を持っている小林氏
新木場木材事情の変遷?
小林氏の話をよくよく聞けば、それは産業構造の変遷というよりほかないものです。何でも、以前は「新木場に行けば、良い材木が見つかる」と必要とされていた新木場という貯木場も、現在においては、徐々にその役割を失いつつあるというのです。というのも、現代においては、レンガやらコンクリやらプラスチックといった材料、建材が居住空間のなかを占拠しつつあるからです。つまり、木材が居住空間のなかで担っていた役割の割合は下がりつつあるわけです。さらに、今使われている木材でも、その流通経路・方式が変わってきていることももうひとつの要因に挙げられます。元々は、丸太のまま運び込まれてきていた木材を、製材して、現場へまわすのが木場の役割でした。しかし、今は、ほとんどが、産地で製材が済まされているため、木場を経由する必要がなくなっているのです。つまり、今、新木場からは新材は消えつつあるのです。そんな状況をいち早く察知して、古材商を起ち上げたのが小林氏だったというわけです。
古材を買いにくる人々?
現在、古材を買い求めに来る人には、さまざまな世代の人たちがいるようです。「若いデザイナーさんのような人から、昔の体験を懐かしんで古材を求める団塊の世代、そしてお年寄りまで、いろいろな人がいますね。東京のエリアで言えば、東より西の人たちの方が、多いのが不思議なんです。東京の西側に住んでいる人たちの方が、古材を好んでくれています。でも、反対に東側に住んでいるような人たちにとっては、古材は目に慣れきっているせいか、なかなかお客さんとしては現れませんね(笑)」。しかし、そう言う小林氏も深川木場で30年間、新材を扱う材木屋を営んでいた人物です。そんな環境に慣れていたはずの彼が、古材に着目できたのは、なかなか大したものです。古材への小林氏の愛が、彼自身を新しい商いへ導いたと言っても言い過ぎではないでしょう。しかし、そんな、古材好きの彼でも、現代的な古材の使われ方には、疑問もあるようです。

古材が用いられた和洋折衷の空間

生活の中に設えられた古材
古材ライフは甘くない
「今は、古民家再生ブームだなんだと、いろいろ言われてます。けど、僕はそういう流行りものは好きではないんです。流行るものは廃れますから。それに、そういう言葉に踊らされるような人たちは、感心しない古材の用い方もするんです。百年もの歴史がある古材を、都心部の自分の家に設えるというのは、簡単にできることではないのです。現代の都市生活には、それなりの用い方というものがあると思うんです。僕が古材を提供したい人というのは、そういうことを理解してくれる人でしょうか」(小林氏)。

古材を用いたオリジナル・デスク

古材を使ったオリジナル・テーブル
古材とは何か?
しかし、古材という言葉は知っていても、古材そのものを理解している人というのは多くはないはずです。では、古材の魅力とは一体、何でしょう? 「古材の魅力というのは、やはり、風合いや馴染みですよ」、そう語る小林氏。他のことは、言葉で説明しきれないといった様子で、この点に関しては多くを語ってくれようとはしません。そこで、古材の魅力を追求すべく、いくつかポイントを調べてみると、他にも以下2点が魅力として挙げられそうです。それは、木材は、時間とともに強度を増すということ。そして、日本の気候に合った無垢材(自然素材)であるということ。しかし、あくまでも小林氏が強調するのは、その機能的な側面よりも、「風合いと馴染み」という付加価値の部分です。「これをちゃんと理解しないで、古材を用いられると、クレームの対象になってしまうから、困ってしまいます。飽きたら、”解体して持っていってくれ”と平気な顔で言われてしまいますから(苦笑)」(小林氏)。 では、プロの目から見た古材の正しい用い方とはどのようなものなのでしょう。
古材を大切なこと
「まず、それは節度をわきまえることだと思います。これ見よがしの、贅沢な古材の使い方は感心しません。それから、しっかりとした大工さんにお願いすることも大切です。今の時代には、古い材木を扱える、木の性質をよく理解した大工さんというのは、本当に減っているのです。いい大工さんというのは、木の性質をよく理解していて、力学を考慮に入れた上で、木材を設えますから。後は、お施主さんが木は生きているということをしっかり理解することですね。ケヤキなんていう材木は、100年経ったっても動き続けますからね」(小林氏)。

ひでしな商店の事務所に連なる暗がりはミステリアス

集められた古材はある程度の長さが必要
木材への信念
お客さんにも率直に厳しいことを語る小林氏です。こういう人の言うことは、信用できそうです。「経験が信念を生む」と本人が語る通り、小林氏はいつも木に語りかけているようです。材木置き場に案内してくれた小林氏は、嬉しそうに一本一本の木との出会いを語ってくれるのです。「この木材を収拾するときは、解体が大変だったんですよ」とか「関東大震災の大火をくぐり抜けた一本ですね」など、さすが古材コレクターです。一本一本の木との出会いを大切にし、一本一本に深い思入れがあるようなのです。
人と人がぶつかり合うことで生まれる
しかし、「ひでしな商店」という材木店を支えているのは、ここを囲む人であることは間違いありません。古材商にインターネットという新しい視点を導入したのは、息子さんです。そして、古材を再利用したオリジナル家具づくりというアイディアを具現化したのは、恊働する若手デザイナーさん。そうした人々が、有機的に動くことによって、ひでしな商店は未来へと前進しているように映ります。しかし、中心人物である小林さんは、今日もひょうひょうと仕事をこなしていきます。「 お客さんのために古材のもっともいい使われ方を考え、提供していくのが、我々の仕事ですから」。いたってシンプルなことを口にする小林さん。しかし、彼が材木店の新しい未来を見据えているのは、彼の言葉の端々に耳を傾ければわかります。「インターネットでアクセス数を増やさないと、お客さんは来てくれないから」。材木の世界では、全国的に知られる「新木場」というブランド力のある地名を活用してゆけば、彼らが新時代の材木店となるのも夢ではないはず。ひでしな商店が池に投げ込まれた小石となって、今後、新木場という土地に波紋が広がっていくことを期待したいですね。

Text & Photos: Takafumi Suzuki *Except several images
4 Comments
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何十年も前の時代を呼吸してきた木材に、新たな息吹をこめること・・・。いいなー。
Posted by: 名無し on November 30th, 2007 at 1:04 pm
古材にはぬくもりを感じます。
不思議と日本人の体温には、やはり木材がしっくりとくるのですね。
Posted by: Anonymous on November 30th, 2007 at 3:31 pm
こんな古材で沖縄の離島にコッテージつくりたい!
Posted by: いち on December 1st, 2007 at 12:17 pm
数年前に我が家を取り壊しました。古材はゴミになったのでしょうね。
長い年月を経て木材になったもの、昔は普通に古材を使っていたのだから、現代でも工夫して使ってあげて欲しいです。
嬉しいな。
Posted by: ケノービ on August 28th, 2008 at 4:09 pm